災害時に障がい者を安全に導く情報技術 ~視覚・聴覚障がい当事者からの提議~
第11回アクセシビリティ研究会において,「災害・防災において視覚/聴覚障がい者に役立つ製品・サービスの創出」に向けたワークショップが開催されました.本ページでは,参加者の同意のもとにワークショップの報告をします.ワークショップ開催前に,視覚/聴覚障がい者の災害・防災における考えを共有する場として,パネルディスカッション(2019年12月14日9:30-10:20)が行われました.その様子は,研究会プログラムのページに置かれた動画で見ることができます.
2019年12月14日 10:30-11:30
ワークショップ1:グループディスカッション
- 参加者は2グループに分かれました.各グループで「災害・防災において視覚/聴覚障がい者に役立つ製品・サービスの創出」に向けて,視覚/聴覚障がい者に”共感”し,問題定義を行うことを目的としました.
- 「共感マップ」を使いました.対象者の気持ちや行動を可視化するフレームワークです.今回は,Pivotbotの共感マップを参考に,中央に対象者の「顔」を置き,そのまわりに4つのエリア,下部に2つのエリアのあるフレームを作り,B0サイズに印刷して各グループに配布しました.各エリアは下記の通りです.
何を感じ,何を考えているか? | 現在の災害時や防災対策に(視覚/聴覚障がい者は)どんなことを感じ,考えていますか? |
何を見てる? | 災害時/防災対策として,(視覚/聴覚障がい者は)どんな環境や準備を“見て”いますか? |
何を言って,どんな行動をしているか? | 現在災害時/防災対策として,(視覚/聴覚障がい者は)どんなことをしていますか?言っていますか? |
何を聞いている? | 災害時/防災対策として,(視覚/聴覚障がい者は)まわりからどんなことを“聞いて”いますか? |
ペイン | 被災を最小限にしたいのに,このままでは起きてしまう“痛み” |
ゲイン | 今回作られる製品・サービスで得られる肯定的な結果 |
- 各グループの視覚/聴覚障がい当事者からの話などをもとに,参加者は各エリアにあてはまる事項をポストイットに書いて貼っていきました.ポストイットは各グループ1色に統一することで「誰が書いた」という差分を極力減らしました.
- 出尽くした後には,ペルソナ(人物モデル)を設定し,どのような視点で問題を定義するか(着眼点)を話し合いました.
- 創出される知的財産の取り扱いについては,小林茂氏作成,水野祐弁護士監修の同意書をもとに本研究会で同意書を作成し,ディスカッションの前に読み上げ,参加者の同意を得ています.
- 情報保障について,聴覚障がい者を含むグループでは,手話通訳と文字通訳を行いました.参加者には手話・文字通訳がスムーズに行われるように,マイクを通してゆっくり発言することをお願いしました.発言前にポストイットに書くこともお願いしました.
- 視覚障がい者を含むグループでは,運営委員が視覚障がい者の代わりにポストイットに書き込んだり,どんな意見がどこに貼ってあるか読み上げたりしました.参加者には発言の前に自分の名前を言うこと,ポストイットに書いたことを読みあげることをお願いしました.
2019年12月14日 13:00-14:00
ワークショップ2:グループディスカッションの発表
聴覚障がい者グループ発表者:設楽明寿さん,加藤優さん
視覚障がい者グループ発表者:小林正朋さん,諸熊浩人さん,佐藤文一さん
発表の様子は,研究会プログラムのページに置かれた動画で見ることができます.
共感マップの結果を写真(jpg)とエクセルファイルで下記に置きます.
- 共感マップ(jpg)_視覚障がい者グループ
- 共感マップ(jpg)_聴覚障がい者グループ
- 共感マップ(Excel)_視覚・聴覚障がい者グループ
- 視覚障がい者グループでの議論の概要:視覚障がい者にとっては,「災害の前に必要な情報が見えない」と「災害が起きてから必要な情報が見えない」という2種類の困りごとがある.災害前には,ハザードマップが色分けのみで,文字情報がないため,今いる場所の情報をすぐに得ることは難しい.災害の種類によって避難すべき場所も異なる.また地震が起きたときにリスクの高い物体,たとえば天井に取り付けられたプロジェクターなどの情報がわからない.災害発生時には,床にちらばっている障害物といった地震前とは異なる状況が把握できない.また日常的にはお店の人に買い物を手伝ってもらっていても,災害時はその余裕はない.空の棚が何であるか自分ではわからない.災害時には,周囲の音から情報を得る.環境音(人の声,交通量),テレビ,ラジオのニュース,防災アプリ,そして触覚.情報が多すぎて,自分に必要な情報を選ぶことがすごく難しい.災害時には外出は不安なため,基本的には家にとどまる.携帯用のトイレは必須.しかし東京では家の中に食べ物など備蓄するスペースが少ないと思う.白杖を持っているため,火事の時はハンカチで口を塞ぐと手がない.もう1本”手”が欲しい.
視覚障がい者がどんなことに困っているか,実際のところがわからない人は多い.たとえば,トイレまで誘導してくれたのに,それで終わったと思って,その場からいなくなってしまうこともある.
このような状況から「人と人とを繋ぐようなデジタルテクノロジー(デジタルからアナログへつなぐ)」が欲しい.最初の段階(初動)はデジタルを使って,手助けしてくれるような人と,手助けを必要とする人をつなぐ.そのつながりができたら,スマホの電池がなくなっても対面で(”アナログ”で)つながっていける.普段から緩やかなつながりを作れるようなシステム,災害時には人同士を現地でつなげるような仕組みが欲しい.
- 聴覚障がい者グループでの議論の概要:ペルソナは「主なコミュニケーション・ツールが手話で,夜に寝ているときには補聴器を外している聴覚障がい者」である.台風や大雨など前触れがあるものは,ゴーッというような音の状況がスマホに出せればいいかもしれない.1番怖いのは火事が起きたとき.前触れがない.健聴者が教えてくれる仕組みがあるといい.デバイス(ハードウェア)やアプリケーション(ソフトウェア)のどちらかだけになるのではなく,融合させて個々のスマートフォンに情報をつなげていけるようになるといい.
ショッピングモールなどの公共の場で火事が起きたときには,アナウンスは聞こえないため,逃げるときには体で情報を表現してほしい.また避難する人の流れが道となり誘導にもつながる.
人の流れが火事の動きなのか,バーゲンセールに向かう動きなのか,判断が難しいかもしれない.ローカルでの警報をスマホで知らせてほしい.
子供の頃からの危機管理も自然に身についているかもしれない.野生動物の足跡に気が付きやすいとか.